第49回衆議院議員総選挙が本日公示されました。10月31日に投開票を迎えますが、今日から30日までは「選挙運動期間」として、候補者が選挙戦を展開します。また、インターネット上では一定のルールの下で有権者も選挙運動を行って良いこととされています。特にコロナ禍での選挙戦では、インターネットを活用した選挙がこれまで以上に過熱化するとみられています。
公職選挙法は候補者にとっても有権者にとってもわかりやすい法律とは言えず、選挙プランナーである筆者にも「これはやっていいのか」「公職選挙法的にセーフかアウトか」といったお問い合わせを多くいただきます。そこで、特にインターネットやSNS上において選挙運動として行って良いことと悪いことをまとめました。
有権者が行ってもいい選挙運動
SNSなどで候補者の投票依頼をする
例えば、有権者はTwitterやFacebookなどのSNSで特定の候補者について投票を依頼することができます。公職選挙法では「ウェブサイト」の中にホームページやブログのほか、TwitterやFacebookなどといったSNSが含まれるほか、LINEやFacebookメッセージといったメッセージアプリも含まれています。
一方、(アットマークの入ったメールアドレスやSMS(ショートメッセージ)といった)電子メールでの投票依頼は(後述しますが)候補者や政党等のみが行えることとなっており、有権者が行うことができません。メールがNGで、LINEやFacebookメッセージはOKというのは線引きとして難しいように思う人もいるでしょう。メッセージアプリはOKで、メールがNGという点だけまずは押さえておきましょう。
動画共有サイトなどで候補者の投票依頼をする
YouTubeなどの動画共有サービスやニコニコ生放送などの動画中継サイト等も含まれています。テレワークなどで浸透したネット会議システム「Zoom」「Skype」なども、この「ウェブサイト」に含まれます。音声のみをインターネットで生配信するTwitterのスペース機能などでも問題ありません。
なお、インターネット上には様々なサイトがありますが、サイトの規約などで選挙運動目的の利用を明示的に禁止している場合もありますので、確認の上利用するのが賢明です。また、視聴者は必ずしも全員が同じ候補者を応援しているとは限りませんから、そういう方々への配慮や対応も必要になることは念頭に置いた方が良いでしょう。
自分のブログやサイトに候補者を応援したり投票依頼する記事を投稿する
自分の管理しているブログやサイトで、候補者を応援したり投票を依頼する記事を投稿することも問題ありません。また、上記のSNSや動画共有サイトなどのリンクを入れること、候補者の公式ホームページへのリンクを設定するなども問題ありません。
こちらも、コメント欄などがあれば、別の候補者を応援している方からのコメントなどが入ることも想定されます。コメントをオフにしたり、一定のルールを設けてコメント欄を開放するなどの対応が必要になるでしょう。
候補者や陣営のツイートなどを共有(シェア・RT)する
候補者や陣営のツイートなどをシェアやリツイートといった方法で共有することも差し支えありません。候補者や陣営から、積極的な拡散を依頼されるケースもあると思います。公式リツイートももちろん、引用リツイートで自身の意見を合わせて発信することも問題ありません。
注意が必要なのは、ツイートの真偽をきちんと確かめてからリツイートなどの行為を行うように心がけることです。昨今では悪意のあるデマのツイートも多く見かけるようになり、これらのツイートををリツイートしただけで、リツイートした人まで損害賠償を求められた事例もあります。特に後述するように選挙に関する虚偽事項の公表は公職選挙法によって明確に違反とされているため、真偽不明の情報をリツイートするだけで違法行為に加担してしまう可能性すらあります。
多くの候補者(陣営)のアカウントには、本人認証がされていますから参考にすると同時に、特に過激な投稿やインパクトのある情報をリツイートする際には、別の情報源を探してみる、候補者本人や陣営のコメントを確認するなど、「一歩立ち止まって考える」時間を置くことが大事です。
有権者が行ってはいけない選挙運動
ここまで、インターネット上で展開しても良い選挙運動について述べてきました。比較的自由に選挙運動ができることがおわかりになったと思います。一方、有権者が行うことはできない選挙運動は注意が必要なことも多く、意図せず公職選挙法に抵触してしまうこともあります。特に気をつけたい点について、一つずつみていきます。
有権者による選挙運動用メールの送信は禁止
前述しましたが、有権者による選挙運動用メールの送信は禁止されています。具体的には、メールアドレス方式(アットマークのあるもの)や電話番号方式(いわゆるショートメールサービス)での送信が禁止されています。
候補者や政党等が送付することは問題ありませんが、これを転送することは禁止されています。従って、例えば候補者のメールマガジンを購読していて、これが選挙期間中に届き、選挙運動に関する記載があったとして、このメールを第三者に転送することは、「有権者による選挙運動用メールの送信」になるために、違反となります。また、例えばショートメールで友人・知人に投票依頼のメッセージを送ることも違反となります。
特に選挙期間中は候補者や政党等からメールが届くこともあるかもしれません。メール内にも多くの場合記載されていると思いますが、それらを受け取った有権者が転送しないように注意する必要があります。
18歳未満の選挙運動は禁止
そもそも18歳未満は「有権者」ではなく、選挙運動を行うことができません。これはインターネット上の選挙運動に限らず、例えばウグイス嬢や街頭演説中のビラ配りなどでも同様です。
最近では政治に関心を持ってもらうための公民教育・主権者教育の高まりをはじめ、若い世代に関心を持ってもらうための施策が学校をはじめとする教育機関、NPO、地方公共団体で展開されており、これ自体は良い施策だと感じています。しかしながら、そういった熱が高い状態であっても、18歳未満の方が選挙運動を行うことは禁止されていますので、特定の候補者の当選を得るための活動はしないようにしなければなりません。特にSNSで応援をしたり、投票依頼をするようなことも選挙運動にあたるので注意が必要です。
ホームページやSNS、メールを印刷して頒布するのは禁止
インターネット上の選挙運動について解説をしていますが、これらを印刷した瞬間に、その印刷物はインターネット上の文書図画ではなく、単なる文書図画となります。
選挙期間中は、通常の文書図画について、サイズや枚数など細かい規制があります。これらに違反する文書図画は「脱法文書」「法定外文書」などと呼ばれていずれも公職選挙法違反となります。特定の人に渡すように行う新聞折込などの「頒布」が違法となる以上、不特定の人に渡るポスティング「散布」も当然に違法となります。
昨今では相手候補者のホームページを印刷して、間違いや自らの主張を書き足したタイプの文書、いわゆる怪文書も多くみられるようになりました。これらの文書も特定の候補者を当選させるための目的であれば、選挙運動における「脱法文書」「法定外文書」となります。
選挙運動期間外の選挙運動は禁止
選挙運動期間というのは、公示日(今回の衆院選の場合、10月19日)から投開票日前日(同、10月30日)までです。厳密に言えば、公示日は午前0時からではなく、候補者が立候補届を出した時から選挙運動ができることとなり、最終日は23時59分まで可能です(街頭演説は20時まで)。
従って、特に投開票日に特定の候補者に投票するよう依頼する投稿をSNS上に行ったり、投開票日に動画中継サイトで特定の候補者への投票を呼びかけることは、この選挙運動期間外の選挙運動となり、違反となります。もっとも、期日前投票が選挙運動期間中も行われていますが、期日前投票への呼びかけは合法ですし、今では期日前投票の割合が全投票の3割を超えて地域によっては5割近くまでいくため、早めの期日前投票と候補者への投票呼びかけをセットに行うことが多いと思います。
候補者に関し虚偽の事項を公開するのは禁止
当然のことですが、候補者に関して虚偽の事項を公開することは禁止されています。公職選挙法違反として罰せられるほか、名誉を毀損する内容であったり侮辱するような内容であれば、刑法で罰せられる可能性もあります。なお、虚偽事項の公表に限らず、悪質な誹謗中傷行為についても、刑法ほかで罰せられる可能性があります。
特にSNS上で過激な選挙戦が展開すれば、何が事実で何が事実ではないかがわからないような投稿も多く見受けられるようになります。悪意がなくても、インパクトのある画像や投稿をつい拡散してしまうことで、この「虚偽の事項を公開」に該当するケースもありますから、特に拡散しようと思うときにはひととき立ち止まって、投稿内容の真偽を確かめる必要があるでしょう。
さらに情報が必要なときは
ここまで、公職選挙法や関連法規を踏まえてインターネット上やSNS上での選挙運動について解説をしてきました。なお、更にわからないことについては、下記の総務省サイトで確認してみると良いでしょう。
【総務省】インターネット等を利用する方法による選挙運動の解禁等
また、違法だと思われる投稿を見つけたときにはむやみに拡散などをすると、自らが法律違反に問われる可能性があることをここまで書いてきました。悪質性が高いようなものについては警察に通報するなどの対応を、そうでないものについてもむやみに拡散などをせず、誹謗中傷やデマについてはSNS上の通報機能を利用したり、サイト管理者へ連絡することをお勧めします。
特定の候補者を応援する立場の方のみならず、今回の選挙に少しでも関心をお持ちの方でSNSを普段から触られる方であっても、一歩間違えてしまうと公職選挙法違反になりかねないようなこともありますので、法律上のセーフ・アウトについての理解をした上で、この総選挙に有権者の立場から積極的に参加してみてはいかがでしょうか。